ペットがつなぐ産業集積型クラスター | 市場は国内から海外へ
ペット飼育者の約6割が、90後(90年代生まれ)、00後(2000代生まれ)と若年化している中国。忙しい毎日を送る若者でも、ペットとより心地よく共生できるようなグッズや、「お腹を満たす餌」から「美味しくて体に良い食事」へのこだわり、買い物や旅行もペットと一緒に…など、彼らの行動力・ニーズの多様化がペット産業を急速に発展させています。
本記事では、ニーズから急成長しているペット産業と、産業クラスター事例を紹介し、産業集積型クラスター後の問題や日本の中小企業の事業展開に役立つヒントをお話します。
ペット産業は万能産業!
産業分類から見てペット産業は、第一次産業;繁殖と生体販売、第二次産業:ペット用品、餌(食品)、薬などの製造、第三次産業;医療、美容院等のサービスをカバーし、スマート化やAIなどのエレクトロニクス情報関連に関与し、旅行や3Dプリントフィギュアなどの新カルチャーを創造する力も持っている、将来性のある万能産業とされています。
中国ネットショッピングサイトT-mall(天猫)2025年6月18日セールでは、ペット食品の売り上げが75億元にも達し、前年比36%アップを記録しました。
ペット食品に利用される農作物原料など、関連産業を帯同する力が高く、消費にも一定の影響力がある市場が国内に生まれたことで、数十年前の外国ブランドのOEMだけではなく、研究・開発を経て自社ブランドが多々生まれています。
中国飼料工業協会の統計によると、2024年ペット飼料の生産量は160万トン、2025年1-6月までの統計では既に100万トンを超えており、飼料の売り上げ増加を裏付けています。

ペット産業パーク | 全国規模で拡大中 ペット産業は国家戦略級産業?
経済規模が今年中に8000億元を越えることがが見込まれているペット産業は、消費者ニーズ主導ではなく、国や地域が一体となってルールを作りながら大きく育てる段階に入っています。
ペットフレンドリー都市:佛山市
広東省佛山市は2025年、全市的な行動指針として「ペット経済の集積的発展推進行動方案(2025~2027年」を発表しました。産業と消費者を具体的に結びつけるこの方案では、以下の2つの方向が示されています。
1つ目は、ペット産業のクラスター化
ペット産業を支える国内外のペット用品、ペットフード、薬などのブランドまたは製造大手を積極的に誘致し、地元のペット業界企業の増資・生産拡大を促進することでペット経済を担う産業クラスターを形成します。
2つ目は、ペットフレンドリー都市
市として、最低でも2つの大きなペットコミュニティの場を建設し、コミュニティ商圏内の関連施設やサービス提供者は一定のルールを設けた上でペット帯同を許可するプランを発表。レストラン、カフェ、テーマパークやショッピングモール、ホテルなどの積極参入を求めるとともに、ペットコミュニティ内の公園や緑地などにはペット専用洗い場・トイレ、人(ペット)と車両の分離など、インフラ面でもペットフレンドリーな街づくりを目指しています。

サプライチェーン集結型産業パーク:合肥市
安徽省合肥市は2024年、「合肥市ペット経済のハイクオリティな発展促進行動計画(2025~2027年)」を発表。国内外のペット分野の有力企業や研究機関を積極的に誘致し、産業パーク内に企業本社や研究開発センター等の入居を推進し現在すでに一部が稼働しています。
ペット用品、医療機器、ペットフード、ペット向けスマート製品などのブランド企業を一括して誘致し、サプライチェーンの上流から下流まで全ての関連企業を集結することで、ペット産業のクラスター的拠点とする予定です。特に医薬品・食品・ペット日用品・ペット向けサービス、医療の分野を重視しており、明確な数値目標も掲げています。
<合肥市・サプライチェーン集結型産業パークの目標>
100億元の生産額を達成するペット産業園区の建設
競争力あるペットブランドを5つ育成
ペット関連企業1~2社を上場予備リストに導入
数値目標達成のために、研究・開発費用の奨励金、産業パーク入居企業向けの投資額に応じた補助、ECサイトでの売り上げに応じた奨励金、新薬開発において新規取得した薬の区分に応じた奨励金など、様々な政策が発表されています。
ペット産業新たなステージの起点
上記以外の都市でも、全国的にペット産業のさらなる発展に向けて布石を打つ動きが目立ってきています。
例えば、北京首都空港から車で約1時間の北京平谷ペット経済産業パークが2025年3月に竣工しました。
フランス・日本・韓国など国際的なペット関連企業・ペット協会などのサポートを受けて、ペット産業サプライチェーンの高度な体系化のため、3~5年以内に10社以上の業界トップ企業を育成し、1年の生産額の50億元突破を指標として、全国のペット産業モデル地区となるとともに、ペットの飼育についてもモデル地区を目指しています。土地柄か、銀行も本プロジェクトに参与しており、資金面でのサポートを円滑に行う仕組みが整っています。
ペット産業集積型クラスター地域はすでに全国20カ所以上あります。
その他、上海、寧波、杭州などの大都市では、ペットパークや「ペットフレンドリー」型商業複合施設の建設ラッシュとなっています。

佛山市は「人とペットの生活」という視点から、合肥市は「新産業を地域振興の要」として、産業と人を集めているなど切り口は違うものの、ペットという比較的新しい産業の育成を通じて、都市イメージアップや新しい消費、人材や雇用の確保などに影響をおよぼすまでに成長していると言えるでしょう。2025年はまさにペット産業クラスター化の起点の年となっています。
産業集積型クラスター化の後
一方で、クラスター化したことによるブランドの差別化が難しくなり、価格競争が激化する問題も発生しており、海外へ市場を求める動きがすでに活発化しています。
中国ペット産業 | ペットの世界もスマート化、「他経済」の発展 でもお伝えしたとおり、例えばシステムトイレ本体と猫砂のサブスクセットのように、アメリカなどで人気ではありますが、さらになる差別化としてシステムトイレの排泄物から健康状態を管理し、病気の検知や予防を促すような技術の開発が求められています。
ペット需要が増えているアジア圏や中東では、特にタイなどのローカルメーカーとの価格競争やブランド力の向上、日本などの食品衛生法や文化の違いなどによる原材料の厳選と厳格な管理、ヨーロッパ市場向けのパッケージ環境対策や「地産地消」への対応など、より相手国を尊重し理解する取り組みも必要になっています。
産業集積地の出現により産業が規模化するだけにとどまらず、北京平谷ペット経済産業パークのような国際化された環境の中で、国際基準や海外の多様なニーズに対応するための最新技術や管理を研究する持続可能な体系化された中長期的な成長サイクル戦略が必要となってくるでしょう。
まとめと日本の中小企業の事業展開の参考
中国ペット産業のクラスター化の現状を事例を通じて紹介しました。
消費ニーズが多様化し市場がある程度育ってきたあと、各企業を集めてクラスター化し一大産業として大きく育てていく土壌があることは大きな強みだと思います。
* 中国ペット産業は、第一次産業・第二次産業・第三次産業をカバーしさらに新しい産業を創造する力もある「万能産業」
* 産業クラスター化は、「人とペットの生活向上」「産業育成から人と地域社会に貢献」どちらも実現できる
* 海外市場開拓のため、相手国への理解や技術向上・厳格な管理体制が必須
中小企業事業展開のヒント
* 企業体力のない中小企業が「産業集積型クラスター」でつながり、ブランド化する
例:燕三条
* 世界各地にある日本企業ネットワークや、アジア圏にある自社製造工場などを利用し、「地産地消」を実現
* 産業集積型クラスターは実際の地域であると同時に、全体を俯瞰し企業の枠を超えて協力体制を作る概念でもある点に着目。インターネットやIoTを活用してデジタルツインを実現、製造の最適化など自社の特分野を生かした参入を検討
最後まで読んでいただきありがとうございました。この記事を通じて何かしらのヒントや情報を得てくださり、少しでもお役に立てたなら幸いです。