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低空経済 | 新産業発展の期待と課題

中国低空経済とは、高度1,000メートルの低空域で、ドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などのを活用した経済活動のこと。
目次

低空経済 | 新産業発展の期待と課題

次世代の新たな交通・物流手段として注目されている空飛ぶクルマ。

中国では、2010年代から一部メディアで取り上げていましたが、2024年が空飛ぶクルマを含んだ「低空経済」元年とされており、今年は実際の応用事例や経済効果が次々に発表されています。
  
今回は、低空経済への期待度と医療産業への応用での課題を紹介します。

1.「低空経済」に期待されている経済効果
2. 医療現場の夢と現実
3. まとめ

「低空経済」に期待されている経済効果

低空経済とは、高度1,000メートルの低空域で、有人・無人または遠隔操作などの手法を問わず、ドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などを活用した経済活動のことで、これらの飛行機器と機体製造、運用管理のための設備や付帯サービスなど、関連産業全てを含んでいます。

2021年に3000億元未満だったこの産業は、2025年には約3倍の8600億元以上にまで成長しているため、大きな期待をしているのでしょう。

世界の消費者向けドローンの7割・産業用ドローンの5割が中国・深圳から出荷されているというデータもあり、この産業の急速な成長も頷けます。
政府系シンクタンク赛迪研究院の発表によると、低空経済関連の企業は2023年時点で中国全土で約5万7,000社、現在も増え続けているそうです。大きな成長が見込まれると、新しい技術を社会実験する許可を早く出す傾向がある中国では、「0→1」「1→100」が早く、実際の社会で様々なデータを取り市場規模を拡大していくことに非常に積極的です。

市場規模を拡大するためには、新しい応用の現場が必要で、例えば大都市や都市圏においては、交通渋滞の解消、物流コストの削減、環境汚染問題の解決などに大きな期待を寄せているようですが、以下のようなシーンで既に様々な事例が報告されています。
まだまだ地質測定・農林植物保護・防犯モニタリングやインフラ巡回検査など、「限定された範囲」の低空域での活用事例が大半ですが、今後は車と同様に目的地に向かう移動手段としての事例が多く出てくるでしょう。

実際の応用シーン別利用割合
地質測定30%
農林・植物保護26%
防犯モニタリング12%
インフラ巡回検査11%
物流・配送8%
応急処置5%
その他8%
データ参照 iResearch;https://www.iresearch.cn/

また、コストパフォーマンス面において以下のようなデータも報告されています。

指標自動車高速鉄道ヘリコプターeVTOL
距離(km)881008181
所要時間(分)90905042
平均時速(km/h)596697116
コスト(元)90028630,0001,500
CO2直接排出量6,1811,10041,1870

本当に期待値通りであれば…

1. 経済成長が見込まれる
2. コストパフォーマンスが良い
3. 既存産業が活性化され、新しい産業の発展を促進
4. 環境に優しい

しかしながら、いい面ばかりでもありません。
応急処置および物流・配送に含まれる、医療の現場での応用について現実的な問題も指摘され始めています。

医療現場の夢と現実

 手術中に急遽大量の輸血用血液が必要になり、隣県の病院にストックがあることがわかった…こんな時に、救命用のeVTOL(電動垂直離着陸機)があれば早く運べる!

アイデアとしては、非常に素晴らしいと誰もが感じることでしょう。

中国の大きな病院でも、こういった取り組み自体は既にスタートし事例も上がってきているものの、実際にあがっている問題は、技術と医療という「業界の壁」と、どこで稼ぐかという「ビジネスモデル」です。

AI生成イメージ

業界の壁

中国の医療現場では、輸血用血液搬送および引き渡しに細かな規定があり、例えば必ず数人体制で行わなければならない、血液の品質保証問題など、現在は様々な法規制やルールが存在します。
そのルールの合理性を知らない新しい技術を使ったeVTOL(電動垂直離着陸機)の担当者は、「素早く運ぶ」技術を説明し、その管理体制は最先端のシステムで支えられていることをPRしますが、現在の医療システムとどのように連携されているのか、運ぶ任務は遂行できるものの血液の品質保証はできるのかといったような、実際の現場が欲しい情報が入手しにくいという問題が発生しています。

ビジネスモデル

新しい血液輸送モデルが出来たとして、既存モデルとの比較や損益分岐点がどこになるのかといった非常に現実的な問題に直面しています。
既存産業が新しいものを受け入れるとき、ビジネスとして成り立つかは大変大きな問題であり、病院、血液ステーションと輸送運営側が双方合意できるビジネスモデルの再構築における、ビジネススキルを持った技術者・または医療関係者が圧倒的に不足しているのです。

新しい業態だからこそ、しっかりとルール作りや管理規定を設ける必要があるものの、新技術と医療の現場を橋渡しする人材が圧倒的に足りておらず、そこにビジネスモデル制定のスキルを持った人材となると、さらにハードルが高くなります。

低空域で物流をスムーズに行う技術と、それをテスト・検証する大きな舞台は用意されていても、それらを1つ1つ現場に落とし込む人材が今、必要とされています。

まとめ

低空経済の経済効果とその期待度の裏にある、現実的な問題についてお伝えしました。新しいものを受け入れやすい土壌があるということは、今、人材がいなくてもアイデアを出し合い、時には海外からの協力を得て発展させていくなど、新しい力を生むことにもつながっていると思います。
単純に人口が多いということではない大きな市場の根底には、こういった見えないパワーが隠れているのかもしれません。

* 低空経済は国が期待するキー産業
* 世界の消費者向けドローンの7割・産業用ドローンの5割が中国発
* 利用シーンは「限定された範囲」が7割以上
* 新産業発展には、業界間の壁を超えた新しい人材が不可欠

最後までお読みくださり、ありがとうございます。中国情報のアップデートに少しでもお役に立てたら幸いです。
本ブログは、中国で発表されたニュースを元に、現地で30年以上続く日本の金型メーカーの経営者目線でまとめてお届けしています。

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