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空飛ぶクルマ | 低空経済とは? 試験飛行モデル地域

中国低空経済とは、高度1,000メートルの低空域で、ドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などのを活用した経済活動のこと。
目次

空飛ぶクルマ | 低空経済とは? 試験飛行モデル地域

大阪万博でも何かと話題となっている空飛ぶクルマ。
中国では、高度1,000メートル以下の低空空域を利用したビジネスを「低空経済」と総称していて、新しい交通手段としての空飛ぶクルマ、ドローンの農業への活用や災害時救助用途なども含まれています。

空飛ぶクルマの市場規模は、2040年までに全世界で約160兆円にのぼるとも予測されており、未来の移動手段として世界中で注目されています。

本記事では、中国の「低空経済」とは何か、産業集積と簡単な事例などを交えて現状を紹介します。

1. 低空経済とは | 中国の経済成長エンジンとして期待
2. 低空経済の重点モデル地域(2025.09末現在)
3. 低空経済がもたらす、産業集積の意味
4. まとめ | 日本の中小企業が学べることは

低空経済とは | 中国の経済成長エンジンとして期待

高度1,000メートルの低空域で、ドローンやeVTOL(電動垂直離着陸機)などを活用した経済活動のことで、これらの飛行機器と機体製造、運用管理のための設備や付帯サービスなど、関連産業の総合的な経済活動を「低空経済」といいます。

有人・無人に関係なく、今まで有効活用されていなかった低空域の「空間」を利用して、新しいビジネスを創出していこうという国家戦略的新興産業として、注目されています。

実は2010年ごろから「低空経済」という言葉自体はローカルメディアで利用されていましたが、当初は農業、山林保護、地形測量などに限定されていました。2021年に「国家総合立体交通網規画綱要」の中で、低空経済が国家戦略性を持った新興産業として指定され、2024年から新たな経済成長エンジンとして位置づけられました。
この年に政府に低空経済の専門部署も設置されたことから、2024年は「低空経済元年」と呼ばれています。

政府系シンクタンク赛迪研究院が発表した中国低空経済発展研究報告(2024)によると、低空経済の経済規模は2023年にはすでに5,000億元(約1兆円)に到達しており、2024年に約6,700億元、25年に約8,600億元、26年には1兆元と、高い成長が期待されています。
その中でもeVTOL(電動垂直離着陸機)は世界中で注目されており、2023年産業規模は約10億元に達する規模、2026年には90億元を超える見込み、2030年には爆発的な普及時期を迎えるでああろうと予想されています。

中国民用航空局の予測では、今年1.5万億元越え、2035年には3.5万億元に届くことを期待しているそうです。

低空経済の重点モデル地域(2025.09末現在)

国家戦力的新興産業として政府が推し進める「低空経済」の重点産業モデル(要素市場化配置総合改革パイロット)地域に選出されているエリアは、以下の通り全国で10地区・30を超える市町村となっています。都市部だけではなく全国に広がっている印象です。

低空経済というエコシステムを牽引する「集積地」として資本・土地・労働力および、データや技術など革新的な生産要素を対象に、都市部のイノベーションと持続可能な成長を加速させる目的のモデル地域には、空飛ぶクルマの試験飛行地域も多く含まれています。印のeVTOL(電動垂直離着陸機)の試験飛行地点は一線都市・新一線都市を起点としてしていることもわかります。

空飛ぶクルマの試験飛行はこれ以外にも、上海を含む長江デルタ全体や珠江デルタ全体で越境でも行われています。2027年までには全国で5000の離発着地点を確保する目標もあるようです。

重点モデル地域一覧

重点モデル地域含まれる都市や地域詳細地域の重点産業・改革の役割
北京城市副中心北京市通州区医療健康・AI・TPMセキュリティ
※首都機能の分散を担い、デジタル経済を推進
蘇南重点城市(江蘇省)南京市、無錫市、常州市、蘇州市、鎮江市全域医療健康・AI・新エネルギー自動車
※長江デルタの製造業ハブ
杭甬温地区(浙江省)杭州市、宁波市、温州市航空・宇宙・医療健康・AI・新エネルギー自動車
※浙江省のイノベーションの中心
合肥都市圈安徽省合肥市全域、蕪湖市、无为市,淮南市寿県,馬鞍山市,安慶市、桐城市,滁州市定遠県,六安市金安区、舒舒城県医療健康・AI・新エネルギー自動車・高速鉄道+インターネット
※安徽省の科学都市発展
福厦泉(福建省)福州、厦门、泉州新エネルギー自動車・海洋・医療健康・AI
※福建省の海洋経済発展
鄭州市(河南省)医療健康・AI・バイオテクノロジー
※河南省の交通起点の要
長株潭(湖南省)長沙市、株洲市、湘潭市航空・宇宙・医療健康・AI・新エネルギー自動車・バイオテクノロジー
※湖南省の産業集積地
粤港澳大湾区内地九市広東省广州市、深圳市、珠海市、佛山市、江門市、肇慶市、惠州市、東莞市、中山市全域新エネルギー自動車・海洋・医療健康・AI・航空・バイオテクノロジー
※国際金融・技術ハブとして、クロスボーダー要素取引や香港・マカオとのシームレスな統合
重慶市直轄市航空・宇宙・医療健康・AI・新エネルギー自動車
※西部陸海新通道の要として、資本と労働力の市場化により、輸出指向型経済を活性化
成都市(四川省)医療健康・AI・TPMセキュリティ・航空・宇宙・医療健康・AI・新エネルギー自動車
※西部開発の中心
印はeVTOL(電動垂直離着陸機)試験飛行地域

低空経済がもたらす、産業集積の意味

「重点モデル地域一覧」の通り、低空経済の重点モデル地域は、その地域全体で力を入れている産業もしくは、すでに重点産業が形成されており、それらを生かしたエコシステム形成の役割があるのが特徴です。低空経済とは単一な産業ではなく、産業集積型で発展をしていくように明確に設計されていると言えるでしょう。

低空交通・物流

多くの企業が参入している領域です。

物流大手の順豊は、浙江省や江西省の農村で無人ドローンを利用した物流サービスを試験提供し、Eコマースでも有名な京東も、広東省で無人ドローンを活用した物流センターの運用を開始しています。
深圳や広州では、空港と市内を結ぶ空飛ぶタクシーサービスの試験提供が開始され、わずか15分で市内に到着できるようになっています。
また、商業ドローン専門の迅蟻網絡科技は、合肥や杭州などで都市と農村を結ぶ医療物資の運搬に力を入れており、エリアを拡大中です。

これらのサービスは、例えば無人運航管理センターや、ドローン操作員、離発着を行う場所など、関連産業や新たな雇用を生んでいます。

飛行機器:機体や部品、半導体、AIなど

ドローンや無人ヘリコプター、eVTOL(電動垂直離着陸機)などの機体には、核心となる電池、モーター、ナビゲーションシステムやGPSなどの部品が必要となり、eVTOLメーカーの億航智能の機体は完成品としてすでに海外へ販売されています。

新エネルギー自動車メーカーである小鵬自動車や吉利集団も機体メーカーとしてeVTOL(電動垂直離着陸機)の試験飛行を2024年に成功させています。広州汽車集団は2025年6月、2人乗りの量産型eVTOL(電動垂直離着陸機)を約170万元での発売を発表、1日で1000台もの予約が入ったと話題になりました。

機体製造・部品製造産業はもとより、設計士やデザイナー、テストエンジニアなどの新領域人材の育成も急ピッチで進められています。

小鵬自動車のeVTOL/小鵬自動車ホームページより

旅行・エンターテイメント産業

ヘリコプターでの遊覧より気軽に、山間や海辺の低空飛行などダイナミックな景色と経験を提供するサービス、無数のドローンを使ったイルミネーションショーや低空から撮影された写真・動画コンテンツの販売など、新しい形のガイドやカメラマンなどの需要が高まっています。

杭州市では、無数のドローンを使ったイルミネーションショー観光地の低空飛行遊覧サービスなどがすでに開始しています。
遺跡や古城を今までとは違った角度から見る体験は、自国文化を再認識しそこから歴史書を読んだり、国内外の観光地への興味・新たなカルチャーの創造など様々な波及効果が期待されています。

農業山林保護・巡回・災害救助

河南省の小麦畑新疆ウイグル自治区の綿花畑などでは、農薬散布や生育状況・害虫の駆除などに活用されています。「【連載】この秋1杯目のミルクティー | サプライチェーンDXとカルチャーの交差点・第2回:人気ティードリンクを支える、サプライチェーンのスマート化」で解説した、ティードリンク業界で利用される茶葉の栽培でAIとドローンの組み合わせで品質管理をしています。
その他、河川の汚染電線の老化など、広範囲かつ人間が行くことすら困難な場所の監視・予防にも役立てられています。

その合間に物資の運搬も行うなどより地元住民にとって便利な暮らしを提供するサービスを行うビジネスモデルも登場しており、新時代の地域振興の手段としても注目されています。

利用イメージ

まとめ | 日本の中小企業が学べることは…

中国の低空経済、文化の違う国のエコシステムの理解は大変難しく、まだまだ身近とは言い難い事例ばかりで、一般市民からすると映画や小説の中だけの未来産業のように見えるかもしれません。

しかし、中国ではすでに動き始めており、3年後・5年後・10年後と目標を設定し、自国の事例を積み上げながら海外の情報を入手し、親和性の高い国や企業へ積極的にアプローチしていることをお伝えしました。

「空」のビジネスは、さまざまな規制や安全面を考慮したルール作りが各国で進められており、日本の中小企業がいきなり新規事業を立ち上げたり、海外展開するのは難しいでしょう。また、単一企業だけで開発から実用化までを担うのは難しいため、異業種間の連携や国際的な提携を活発に行う必要があると思います。
本記事で紹介した事例のように、すでにあるもの・得意なものなど長所を伸ばすような取り組みからノウハウを蓄積し、日本の「空」ビジネスの中で得意な領域を持ち、業界内外で積極的に情報交換を行うような姿勢が大切でしょう。

日本のビジネスへの応用例:
* イベント関連事業者や花火師など、専門領域を生かしたドローンのイルミネーションショー設計・監修
* 自動車産業で培ったノウハウで、空飛ぶクルマとの部品共通化を中国メーカーと協業
* 飛行機器本体や部品の新素材提供
* 姉妹都市の関係を活用し、中国の事例を共有・日本へ一部導入しながら、第三国へ展開

最後まで読んでいただきありがとうございました。
空飛ぶクルマと形容されているように、「自動車」が基礎になっていますが、新産業に挑戦するアグレッシブな中国から学び、空陸両用の機体を大胆に考えてみるなど、この記事から何かしらのヒントや情報を得てくださり、少しでもお役に立てたなら幸いです。
    
本ブログは、実際に中国で製造業の基礎となる金型製造工場経営をしている立場から、中国メディアのニュースなどを元に現場でのリアルな状況を加えて、独自にお伝えしています。
今後も、中国情報をアップデートし、中国の事例から日本の中小企業が学べる未来のヒントを発信していきます。

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