【3060目標】を掲げる中国の電力と蓄電事情
スマートフォンを使った電子マネー決済や出前システム、新エネルギー自動車、夏の酷暑と冬の酷寒を快適に過ごすための冷暖房設備など、電気がなければ生活の質が著しく低下してしまう中国。
世界的に脱炭素化が加速する中、中国も同じようにカーボンニュートラルを進めています。
電力は足りてる? 電力制限は今もあるの?
今回は、そんな疑問が解消できる中国の電力と蓄電事情の現状をお伝えします。
3060目標とは | 中国のカーボンニュートラルへの取り組み
中国では、「3060目標」と呼ばれるカーボンニュートラルへの取り組みとして、再生可能エネルギーの発電容量が拡大しています。同時にエネルギー貯蔵及び分散型エネルギーへの投資や技術研究が活発化しています。
2030年にカーボンピークアウト、2060年にカーボンニュートラルをそれぞれ実現するのが「3060目標」。気候変動による地球温暖化対策としてCO₂排出量を2030年までをピークに減少させ、2060年までには実質的なCO₂排出ゼロを実現すべく、2015年ごろから様々な取り組みを行っています。
中間の管理と体系的な電力エコノミーを再構築
第一段階として、発電側と電力販売側の中間となる送電(電線)事業を管理することで市場の中で自然と価格競争が生まれるよう体制を変えました。新たな電力改革の第一歩です。ここから少しづつ経営主体や市場運営、送配電サービスなどの分散化された新しい体制を構築し、全国統一電力市場体制を作り出すことを目標として掲げています。
新たな発電方式へとシフト中
2024年時点の発電方式比率は以下となっています。
従来の火力・水力・原子力発電などは、資源の限界や自然への依存度の高さ、CO₂排出量削減に貢献しにくいことから、発電能力は高まっているものの伸び率は数パーセントにすぎません。再生可能エネルギー発電へとシフトしている最中で、河北省・広東省などの地域が重点区域として新たな電力供給源施設建設中、または建設計画中プロジェクトが数十件単位で進行しています。

揚水発電と新型エネルギー貯蔵技術にも力を注いでいます。
わずかな余った電力を活用して水を高所の貯水池に汲み上げ、その水を落下させることで発電する揚水発電は、電力の過剰時に水を上げておくことで、電力需要のピーク時に迅速に対応できる利点あります。
夜間などの低需要時に水を貯水池に汲み上げ、昼間の高需要時に下へと流し発電、再生可能エネルギーの蓄電池として、電力需要に応じて発電の量を調整することもでき、電力供給の安定化と効率化を実現します。揚水発電での発電量は、2024年で末時点で5,869万kwにのぼり9年連続で世界一となっています。
さらに、海洋エネルギー発電、水素エネルギーと固体電池、炭素循環発電技術などの研究開発・実用化も進んでいます。
地域格差・需要と供給のバランス最適化
2025年5月時点での情報によると、太陽光と風力を発電源とする設備容量はそれぞれ全体の30%、20%近くまで上昇していると言われており、再生可能エネルギー発電源の効率向上が期待されています。
なぜなら、電気利用量が増え続けているからです。
数年前まで、真夏や真冬になると工場の電力制限で、毎週指定の曜日は一切の生産活動をストップさせるよう当局から指導されることがありました。これも地域によって差があり、工場集積地ではこういった措置が良く取られます。
植物や果物・野菜のビニールハウス栽培や工場生産ラインの高速生産、インターネットショッピングやデジタル決済・AIなどの普及によるデータセンター増強等、消費電力はこれからもっと増えることが予想される中、発電がまだ追いついていないのが現状です。
また、現在約半数を占めている火力発電による電力源は、石炭の産地である地方エリアから遠い沿岸部エリアへ供給されており、沿岸部エリアは人口が多い上に、送電距離も長くなるため電力単価が高い傾向があります。
例えば中国で一番電力の安い寧夏は0.2595元/kWh、一番高い広東では0.4530元/kWhとなっており、その差は少なくありません。だからこそ、新たな電力供給源施設建設計画の重点地区として、広東省が選ばれているのでしょう。
3060目標に向かって、電力の大きな国家級プロジェクトが中長期的な視野で動いているのがわかります。
新エネルギー車が牽引? 注目の「グリッド側」エネルギー

情報通信技術(ICT)を活用して、あらゆる電源からの電力の流れを供給側、需要側が相互に連携して監視・制御し最適化する電力網のことを、スマートグリッド(次世代送配電網)と言います。
すでに甘粛省金昌市にて、AI駆動の「風力・太陽光・水力・水素貯蔵」システム一体化に取り組んでおり、配電網の自動化率は90%を超えているそうです。
分散型エネルギーリソース(供給側・需要側)が相互に連携とは、例えば一般家庭や企業に設置された太陽光発電システムや、新エネルギー車などが含まれます。
電力で走りますが、止まっている時は大きな蓄電設備となります。新エネルギー車の普及により、大量生産するために多大な電力を使うようになった一方で、動く蓄電池として新たな電力源という価値も生まれています。
その場に応じて電力供給を最適化し、AIを利用して設備の予知保全、季節ごとに地域が連携して電力を供給しあう仕組みや、消灯工場やロボットに代表される製造業スマート化推進など、重要な産業におけるインフラの要として改善・アップグレードが繰り返されています。
まとめ
カーボンニュートラルを目指す中国の電力と蓄電事情をお伝えしました。
新産業が急速に発展している中国では、まだしばらくの間電力の供給が需要に追いつかない状況が続くでしょう。地球規模で考え、推進していかなければならないカーボンニュートラル。今後この分野でもAIなどの新技術の応用が進みそうです。
* 3060目標:2030年までにカーボンピークアウト、2060年にカーボンニュートラルを実現する目標
* 揚水発電技術進化中。新型エネルギー貯蔵技術で再生可能エネルギー発電へとシフト中
* 中国は慢性的な電力不足。今後さらに不足する可能性も。
* スマートグリッド分野では、AI利用など新しい取り組みが目立つ
最後までお読みくださり、ありがとうございます。中国情報のアップデートに少しでもお役に立てたら幸いです。
本ブログは、中国で発表されたニュースを元に、現地で30年以上続く日本の金型メーカーの経営者目線でまとめてお届けしています。

