第1回;中国最新ティードリンク事情
中国の街を歩いていると、どの都市でも必ず目にする「奶茶店(ナイチャーデン)」と呼ばれるティードリンク専門店。「外売(ワイマイ)」と呼ばれるデリバリーサービスを利用して、オフィスで差し入れとしてティードリンクを注文したり、夕食後にティードリンクを片手に散歩をする、というようなスタイルですっかり定着しているミルクティー。
その裏側には「ニーズをいち早くつかみ、商品化し、効率的に届ける」仕組みが存在しています。ティードリンク産業はサプライチェーンのスマート化を先取りしている事例でもあり、スマート化がまた新しい経済効果や文化を創り出すサイクルを生んでいます。
本連載:この秋1杯目のミルクティー | サプライチェーンDXとカルチャーの交差点では、まず「中国最新ティードリンク事情」を紹介し、次回以降でその舞台裏にあるサプライチェーンやスマート化、最先端加工技術の仕組みに迫っていきます。
1. 国民的飲み物 | ニュースタイルティードリンク(新式茶飲料)
「新式茶飲料(ニュースタイルティードリンク)」とは、良質な茶葉をベースに、新鮮なミルクや果物などをミックスした飲み物。
世界的なブームを巻き起した「タピオカミルクティー」も含まれ、フレッシュな果物や野菜をふんだんに使ったティードリンクは、今や「国民的飲み物」と呼べるほど、日常化しています。
中国の企業情報企業「啓信宝」が2025年7月に発表した資料によると、全中国にティードリンク関連企業は40万企業以上あり、前年までの5年間で140%アップしているそうです。同じ「飲料」ではあるものの、「瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)」などのコーヒーチェーンは、新式茶飲料には含まれません。
価格もリーズナブルな6元(約120円)ぐらい~高級路線の30元(約600円)以上と様々で、各種クーポンやイベント化などによって価格競争も激化しています。売れ筋は12-20元(約250-400円)の中価格帯商品で、年々平均単価は上がっています。
2. ニュースタイルティードリンク・最新ランキング
2025年6月に胡潤研究院が発表した2025年最新最新ブランドランキングは以下の通りです。

《2025胡潤中国新茶饮品牌TOP20》(Hurun China https://www.hurun.net/ )より抜粋
ティードリンクの総売り上げはこの10ブランドで80%近くまで達していて、購入者の6割以上が20-30代、その中で女性が約7割を占めています。
全国に3万5000店以上の店舗数を誇る「蜜雪冰城」は、良質素材と低価格で学生や新社会人に人気があり、本格志向の「書亦焼仙草」や「覇王茶姫(CHAGEE) 」は店舗やカップのデザインに中国伝統文化を取り入れ、1500年以上も前から華僑向けに作られていたという本格茶葉をベースとして人気、高級路線の「喜茶(HEYTEA)」では、栄養豊富なケールを使った健康によいティードリンクを提案するなど、短期間で新商品を次々に発表しています。

喜茶(HEYTEA)のケールとチアシードが入ったティードリンク。苦味が少なく、飲みやすい。
3. 新イベント「この秋 1杯目のミルクティー」新旧文化と周辺産業効果
中国では、二十四節気(にじゅうしせっき)の「立秋」前後に今年の秋の1杯目のミルクティーを飲むことがイベント化しています。
このイベントは、少し涼しくなってきた季節に彼氏や友人からミルクティーをプレゼントされたよ~とSNSにアップしたことから拡散し、5年ほどで若者にすっかり認知されるイベントとなりました。
暑い夏から初秋に季節が移り、温かい飲み物が欲しくなる(冬に備えて体を秋肥えさせる)時期、という古くからの伝統を背景に、新鮮なミルクを使ったコクのある本格派ミルクティーなどを、「美味しい、もっと飲みたい!」という単なる「モノ消費」だけでなく、微信(WeChat)や小紅書(RED)などのSNSで写真やレビューを体験としてシェアすることで「コト消費」としても楽しんでいるのです。温もりを共有する古くて新しい「感情消費イベント」なのです。
すでに飲料業界の重要なマーケティングイベントとなっており、「外売(ワイマイ)」デリバリーサービスプラットフォームも「立秋」(2025年は8月7日)当日はクーポン配布など販促合戦。
全国25万以上のティードリンク店舗で臨時スタッフが増員され、同じく前年比40%以上も増員されたデリバリースタッフは特別手当や時間超過での配達によるペナルティを緩和するなど対応をしたものの、朝から注文が殺到し、一線都市では、200杯以上の注文待ちが出て店舗がお客様とデリバリースタッフでごった返すなどの影響も出たそうです。
「新式茶飲料(ニュースタイルティードリンク)」は、単一の飲料から健康的なライフスタイル、新旧文化の融合と伝達、SNSなどの新媒体やデリバリーサービス業界への波及効果など、その価値を拡大し続けています。
今年は以下のような「変化」も目立ちました。
* ミルクティーと花束をセットにした新商品
→ 他市場を刺激
* 消費者がデリバリーサービスプラットフォームを利用して注文する際、デリバリースタッフにも一杯プレゼントできる新サービス
* 大学生たちがミルクティー品評会を開催して、学術交流イベントを開催
* ボランティアによる、一人暮らしの老人宅へミルクティーを届ける社会活動
→ 人とのつながり創出
*マイボトル推奨運動による、環境にやさしいイベントへの転換啓蒙
→ SDGs
4. まとめと次回予告 | 人気ティードリンクを支える、サプライチェーンのスマート化
単なる流行現象ではなく、今の中国消費者のライフスタイルや価値観の変化、さらには新しい文化や経済までも創り出す存在でもある、中国ティードリンク業界。
このスピード感と多様性を実現できているのは、高度なサプライチェーンとスマート化の仕組みがあるからです。
次回は、原料調達から物流、需要予測までを支える中国型サプライチェーンの実態に迫ります!